アイミー国際特許事務所
弁理士法人アイミー国際特許事務所

  • お知らせ

IMY知財ニュース 2024年6月 AIの発明者適格性をめぐる東京地裁判決のご紹介

先月のことですが、出勤前にニュースを見ていると、“AIの発明に特許を認められるかどうかが争われた裁判で、東京地方裁判所は「発明者は人に限られる」として特許を認めない判断を示した”という話題が出ました。今月の知財ニュースでは、この話題(以下、事案といいます)についてご紹介します。

 

 

1.事案について

 

(1)概要

原告は、AIが自律的に発明した装置について、発明者の名前を「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と書いて特許を出願しました。この出願に対し、特許庁は「発明者は人間に限られる」として退ける決定をし、原告は決定の取り消しを求めて、東京地方裁判所に訴訟を提起しました。この訴訟の判決が、上述の私が見たニュースです。

 

(2)出願から判決までの経緯

2019年 9月17日:国際出願(PCT/IB2019/057809

2020年 8月 5日:日本国内移行手続き(発明者欄に「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載)

2021年 7月30日:特許庁からの手続補正指令(「発明者欄に自然人の氏名を記載する補正をせよ」との指令」)

同年 9月30日:出願人側が上申書提出(「上記指令には法的根拠がなく、補正は不要」と反論)

同年10月13日:反論は認められず、出願却下処分

2022年 1月17日:出願人側が行政不服審査法による審査請求書を提出

同年10月12日:裁決書(請求棄却)

2023年 3月27日:出願人側が東京地方裁判所へ訴状提出(行政事件)

2024年 5月16日:東京地方裁判所による判決

 

(3)裁判における争点:特許法にいう「発明」とは、自然人によるものに限られるか否か

 

(4)争点における両者の主な主張について

(a)原告(出願人)側

・特許法はAI発明の保護を否定していない

・AI発明の出願では発明者の氏名は必要的記載事項ではない

・特許法29条1項等は、発明が自然人以外のものによりなされる場合があるということを排除する趣旨まで定めた規定ではない

 

(b)被告(特許庁)側

・現行特許法において特許権の付与により保護される「発明」とは、自然人によってなされたものに限られると解される

・国内書面の「発明者」の「氏名」欄には自然人の「氏名」を記載する必要があり、これを満たさない国内書面は形式要件違反があるとの評価を免れない

・本件国際特許出願に関する各国の状況(※)をみると、複数の国において、発明者適格は自然人のみが有するものであり、AIは発明者になれない旨判断されている

・現行特許法は自然人による発明のみを特許権の対象として念頭に置いて制定されている

 

※米国や欧州等の各国で、AIの発明者適格性が否定されています。南アフリカでは特許が成立していますが、同国は無審査登録制度を採用しているため、議論にならなかったと思います。

 

(5)裁判所の判断について

裁判所は以下のように述べ、“特許法に規定する「発明者」は、自然人に限られるものと解するのが相当”とし、特許庁による出願却下処分は適法と判断しました。

 

・知的財産基本法は、特許等に関する基本となる事項として、“発明とは自然人により生み出されるもの”と規定していると解するのが相当

・特許法36条1項2号にいう“発明者の氏名”とは、文字どおり、自然人の氏名をいうものであり、発明者が自然人であることを当然の前提とする

・AIは、法人格を有するものではないから、特許法29条1項にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当

・特許法の「発明者」にAIが含まれると解すると、AI発明をしたAIに関する権利者やAI発明を出力等するハードウェアに関する権利者などのうち、いずれの者を発明者とすべきかという点につき、法令上の根拠を欠く

 

(6)裁判所の付言について

裁判所は、特許庁による処分は適法と判断する一方、以下の意見を付言しています。

 

・AIの自律的創作能力と、自然人の創作能力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、現行特許法による存続期間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得る

・AI発明に係る制度設計は、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方

・まずは立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されている

 

 

2.感想

現行の特許法が自然人を前提として設計されている以上、今回の裁判所の結論に違和感はないのですが、裁判所が“立法論として検討を行う必要性”について言及した点に大変興味があります。

今後、“AIによる発明の権利の存続期間”や“AIによる発明の権利を受ける者”等の問題について、国会でどのように議論がなされるのか注目したいところです。

 

なお、判決文の詳細は下記をご参照ください。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/981/092981_hanrei.pdf

 

(T.A記)